2007/07/08 美男ではなかつた
新芽の、花かと見まがふ薄紅色やごく淡い浅緑、そして、頼りなげに蔓の先がふらふらしてゐる一鉢、「ビナンカズラ」の札がついてゐた。美男といふより美女といひたい風情だけれど、光源氏の美貌を褒めるのに、「女にて見たてまつらまほし」なんて言つてゐるから、ま、美男葛といふのも的はずれではないと、手もとにおくことにした。 けれど、幾年か経つうちに葉つぱはバリツと厚く逞しく、色も、花にも見えたあえかな色はどこへやら、濃いみどりになり、なかにはくすんだ朱色を帯びてゐるのもある。なよなよした美男はどうしちやつたの? これぢや百戦錬磨の強者(つはもの)ぢやない。 ところが、この強者が可憐な花を咲かせた。幾鉢かに株分けしたその一鉢にそれもたつた三りん、径一センチちよつとくらゐだけれど、けつこう、高い香を放つてゐる。わが家に来て五、六年にして初めての花である。 よろこんであつちこつちに、この、むかし美男の花を言ひふらしてゐたら、「それ、初雪葛ぢやないの?」といふこゑあり。慌てゝネットや図鑑で調べたら、美男ではなくて初雪でした。やつぱり美男はわが家にふさはしからずか。
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