短歌

2006/11/23 
   秘色の壺             

 陶片にきりりみひらく隻眼を残していづこ古代の
 戦士は

 アリバイになるかも知れぬ 篁に有明の月の落つ
 る見てゐる

 雨の夜は発光してゐむおとうとの終焉(をはり)
 視てゐし風折れ一樹

 ふるるふるへるゼリーとともにゆれてゐる閉ぢら
 れて致し方なくチェリーは

 御遺族の御意向なりと消されたる一句ことさら耳
 目集むる

 一年の間(あひだ)に老いて衰へて破(や)れ翅
 拡ぐる枯色蟷螂

 あかき唇(くち)残して褪色せる絵馬に女の祈願
 のなまなましけれ

 知りたきは余に儀にあらず本当に神さまの裔と信
 じてゐるの?

 きりきりと夏帯結びて立ち出づる矢でも鉄炮でも
 持つて来い

 梅干しの核噛み割つてもうをはり向後(きやうこ
 う)縁は切れたとおもへ

 おろおろとさまよひゐるとでも聞かば憐れむ心に
 なるかも知れず

 誇らかに湖水かがやく 龍神のあらはれし日の記
 憶とどめて

 冠組(ゆるぎぐみ)の帯〆締めてできあがり秘色
(ひそく)の壺に逢ひにゆくなり

 冷たき水張りて見るべし魚ふたつ底に彫りたる青
 磁深鉢

 砧青磁(きぬたせいじ)・飛青磁梅瓶(とびせい
 じめいぴん)・花卉文鉢(くわきもんばち) この世のものか この世のものなり
2006/08/27 鈴虫浄土
花つけぬプランターの著莪(しやが)威(おど)かすと唱ふる呪文「倶利迦羅紋紋(くりからもんもん)」

乱されしことのいささか快く花終へし枝ぱちぱち剪りつむ

分け入れば青茅原は血のにほひ喉につめたく触れ来るありて

婆娑羅婆娑羅 青茅かきわけ掻きわけて負へる傷より浄まりゆくか

来し道もたちまち塞がれ茅原のわれは囚人(めしうど) 風を見てゐる

葛籠(つづら)に入れ納戸に放りこんでおくかのとき締めゐし濡れ燕の帯

五感六感新しくなる 颱風の風雨に現身(うつそみ)うたせてゐれば

皮膚はおろか内臓にひびきて颱風の雨の痛さのあな快し

さういへば斧定九郎と同じ型 雨にそぼちたる裾しぼりをり

ベランダに干されて一夜泳ぎゐし足袋のまとへる宇宙塵のにほひ

膝小僧抱いて見てゐる昼の月「見るべきほどの事」まだ見てない

忌の今日を雨にけぶれる山毛欅一樹 亡骸は露に濡れてゐたりき

やうやくに種を抜きたる鬼灯を鳴らして呼ばはむ常若(とこわか)の汝

天の川に沿ひゆくといふメッセージ 百萬年後にもたらさるべし

おろしたる簾の向うは異次元界 庭石に夏のひかり吸はれて

根の国より遊びに来しなり飛び石の縁(ふち)より蜥蜴のつと現れて

絹鳴りをさせつつ博多の帯締めるこれから観にゆく濡れ場殺し場

血まみれにやがてなるはず黒羽二重 臑(すね)しろき男の花道を来る

怨霊となり徒(あだ)し男(を)を引き寄するところにて幕 その後は見せない

よみがへる清元の三味線(さみ)がそそのかす「もつと惡いことをしようよ」

切繪圖にさがす木下川(きねがは) 殺し場の女男(めを)に利鎌(とかま)に月うつくしかりき

木下川は鬼念川とや現在(いま)はもう無い川 鬼はいづこに念ずる

屋上より見おろすビル群の凹凸やここのどこかで殺されたはず

むらさきの紗の文(あや)袂に乱しつつ「忍」とふ徳目もとうに忘れつ

幾粒かの錠剤になだめられてゐて「あさきゆめみし」それがどうした

錠剤のもたらす睡りに神経のどこかが素直になりきれずゐる

武具(もののぐ)を脱ぐごと羅(うすもの)ぬいでゐる 帯・紐・神経みな解き放つて

地に落ちて今し死に行くもののためゆふべの森を領じて蝉聲(せんせい)

簾に射す晩夏光(おそなつかげ)や生き残りし身のひそひそと葛切り食べゐる

宵のあめ過ぎたるのちをふるふるときらめく草生(くさふ) 鈴虫浄土


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