2006/12/06 珍事出来(しゆつたい)
やつと十日経つた。 相棒がビルの階段から転げ落ち、病院にかつぎこまれた。二十五日の午後のことである。 眉の上のあたりの骨が折れ(これも立派な頭蓋骨骨折です)、右手、左足の骨も折れた。オデコ、右耳、右目で階段を降りてしまつたらしく、みごとに紫色に腫れあがり、オデコは幾針か縫つてもらつた。頸骨の靱帯も切れてゐるといふ。まさに満身創痍、手と足の手術は四時間に及んだ。 かうなると、お医者さん、あつちこつちの擦過傷や、ちよつとした切り傷なんか、怪我のうちに入れないらしい。そのまま放つておかれたが、ちやんとカサブタができてゐる。 不幸中のさいはひは脳が損傷を受けなかったこと、転落したとき、人にぶつつかつたりして怪我人を作らなかつたこと。つくづく、よかつたとおもふ。守つてくれた存在がある、そんな気さへする。
薄紙を剥ぐやうにといふけれど、ときには厚紙を剥ぐいきほひで恢復に向つてゐる。 かういふとき、よくいへば明るくて前向き志向、ほんたうのところは、ノーテンキ、極楽とんぼニンゲンは、治りが早いのかも知れない。 もしかすると握力が五十パーセントくらゐに落ちるかもしれませんとドクターに言はれてもヘイチャラ、「なーに、七、八十パーセントくらゐまで戻るさ」。指の機能回復に「結んで開いて」をするやうに言はれて、ヘッドフォンでサルサなんか聴きながら、そのリズムに合はせて指の運動。腕も動かすといいですよと言はれると、モオツアルトのCDを聴きながら指揮者の真似。 目はまだ腫れてゐるし、眼鏡はみごとにゆがんでしまつてゐるので、読むことはあまりできないので、わたしが新聞などを音読するのだけれど、 途中で異論を開陳するやら、怒り出すやら。「うるさい。ヤジ飛ばすと、もう読んであげない」。 今日、オデコの包帯がとれた。傷跡がゲジゲジ風。「あーあ、いい男がだいなしぢやない。でも、ヤクザと渡り合ふときなんか利くかもしれない。『この傷が目に入(へえ)らねえかア』」と、かまつてやつた。
毎日新聞の牧太郎氏のひそみにならつて「ここだけの話」、疲れてきました。けが人やお見舞ひに来てくださる方の前では、わたしは役者、元気に明るくやつてゐますが、けつこう、たいへん。 ゆふべは、締切をのばしてもらつた原稿を書きあげるのに、しらしら明けまでかかつてしまひました。
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