2008/02/11 ねずみの結婚式とエヂプトの死者
さうだ、結婚式にお招ばれしてゐたんだつけ。何着て行かう。身内つてわけでもないから付下げくらゐでいゝかな。「春は曙」はちよつと白つぽ過ぎるから、「深川」はどうかしら(「春は曙」も「深川」もわたしが勝手に附けた着物の名)。帶は……。 あれ、宅急便の配達を今日に指定してあつた。どうして、かう、ドヂなんだ。 こゝではつきり目が覚めた。宅急便はほんたうである。結婚式、これがねずみの結婚式なのだから、目が覚めてみればわれながらをかしい。 久しぶりの気分のよい目覚めだつた。
暗がりの中でぽつかり眼が開(あ)く。ひたひた押し寄せくる言ひやうのない不安感に押しつぶされさう。自分でいやになる溜息が出る。 枕元の時計を見ると、五時か六時。早起きの人なら寝床を離れる時間だが、たいてい、草木もねむる丑三つ時過ぎて床に入り、しばらく本を読んでから灯りを消すわたしは、まだ、いくらも睡つてゐない。このまゝ起きてしまふといふ元氣もなく、さりとて、次第につのり来る不安感にさいなまれつゝ、いつ訪れるとも知れぬ睡氣を待つだけの氣力もない。結局、おくすりに手をのばす。 かうした目覚めが続いたあげく、いやぁな夢を見てしまつた。 もう、十年ほども消息を断つてゐる弟が自殺したといふ夢である。 どことも知れぬ暗がりに弟は置かれてゐた。全身、幅広の包帯のやうなものでぐるぐる巻きにされてゐて、頭と肩の形、それに、長く伸ばした脚の先に、爪先が直角に上を向いてゐるのまで、エヂプトの古墳から出て来た死者のやうだつた。それが弟だと誰に教えられるでもなく、ひとりでにわかつた。自裁だといふこともひとりでにわかつた。傍らに、紐をていねい十文字にかけた、手に提げられるくらゐのものが置いてあつた。あれは何だつたのだらう。
この夢の翌々日が、ねずみの結婚式に来てゆくきもの選びの夢である。よほど、わたしの頭の中の回路はヘンテコリン、こぐらかつてゐるやうだ。
熱いシャワーを浴びてから、三十分ほど坐禅。最初に方丈さんから、自分の吐く息に意識を集めるといふことを言はれたが、いまだにそれができない。すぐ、ほかに思ひが逸れてしまふ。自分がいかに集中力に缺け、雑念いつぱいの垢まみれの人間かといふことを、つくづくおもひしらされる。
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